近年、「牛の長命・連産」という言葉が業界内で広く知れ渡るようになりました。単純に考えれば、牛を淘汰しなければ長生きさせることができます。しかし、これは「健康で生産性が高く、収益性の高い牛をできる限り長く牛群に残すこと」とは、少し意味が違います。Ranasinghe et al (2010)*1の研究によると、淘汰されているうしの多くが無発情期、または「サイレントヒート(鈍性発情)」であることが分かっています。牛が牛群に残るには妊娠する必要があり、今日、多くの牛が「受胎能力の問題」を理由に淘汰されている、という事実は変わりません。

牛の淘汰が必要となるのは、彼らに「受胎能力の問題があるから」というだけではなく、私たちが繁殖管理を適切に行えなかった可能性も考える必要があります。繁殖の成功は、適切な牛を適切な時期に授精させることにかかっています。つまり、妊娠するはずなのに妊娠していない牛を見分けられるようになることが重要です。

「受胎能力の問題」によって不本意に淘汰される牛を減らすためには、どの牛に、いつ焦点を当てるか、を意識することから始めると良いでしょう。

デルプロで繁殖状況に応じて牛にチェックを入れると、繁殖適期の牛に焦点を合わせ、わかりやすく判別することができます。例えば、デルプロファームマネージャーにおいて牛群繁殖分布図(図1)のグラフにあるボックスのチェックを外すと、不適期の牛を除外することができます。その他、泌乳段階において、乾乳牛、妊娠牛、繁殖牛、フレッシュ牛、淘汰予定の牛を全て除外でき、空胎牛(赤い▲印)だけを表示することができます。

図1DelPro Herd Reproduction Distribution_日本語.png

図1:デルプロファームマネージャー内の牛群の繁殖分布図


妊娠している牛を除外するには、繁殖の状態を知ることが重要です。妊娠牛か、または妊娠鑑定で陰性だった牛が空胎であることを確認すれば、繁殖適期の牛に焦点を当てることができます。デルプロファームマネージャーとデルプロコンパニオンでは、「授精予定」など繁殖に関する規定のレポートを利用して、妊娠可能な牛を表示することができます。また、デルプロは獣医師訪問の準備を自動化でき、妊娠チェックを行う予定の牛や、長く休ませていた牛を適切なタイミングで訪問先に追加することができます; (このテーマについては後日取り上げます。)

では、空胎牛の対処はどのように行えばよいのでしょうか?もちろん、人工授精を適切な時期に行うことが大切であるのは言うまでもありません。さらに言えば、自発的待機期間(VWP)から21日後までに全ての牛に人工授精を行う機会を設けるといった目標の設定が有効です。つまり、手作業での観察、アクティビティ分析(図2)、乳汁中のプロゲステロン分析により、 発情検知を行う牛を明確に絞るのです。

図2 DelPro Activity heat observation_日本語.jpg

図2:デルプロファームマネージャー内のアクティビティグラフ

図3 DelPro Herd Navigator heat and pregnancy 日本語.jpg

図3:デルプロファームマネージャー内のハードナビゲーターによるプロゲステロン測定

発情検知を集中的に行い、自発的待機期間の 21 日後になっても授精しない牛を観察した場合、これらの牛は無発情であるか、他の繁殖や健康上の問題を抱えている可能性があります。このような牛こそ、「特定したい牛」です。これらの牛は、まだ妊娠できるにもかかわらず、時期尚早に「受胎能力の問題」によって淘汰されてしまう可能性があります。

デルプロのレポートでは、設定した繁殖目標の後に空胎となった牛をすべてリストアップすることができます。これらのレポートに、カスタマイズ可能な標準作業手順書(SOP)を追加することで、お客様が行うべき手順も通知するようになります。また、レポート内のフィルターを利用して、牛を自動的に次の獣医師訪問に充てることができます。これにより、診察が必要な牛の存在を適切な時期に獣医師へ通知することができます。獣医師の診察の結果、牛の健康状態は良好だが妊娠にはもう少し時間が必要である、または他の医療処置が必要であると判断されるかもしれません。健康と定時人工授精のサポートモジュールは、獣医師からアドバイスされた処置や処方された治療を記録し、牛が「受胎能力の問題」で淘汰されてしまうことを防ぎます。

繰り返しますが、「牛の長命・連産」とは、牛を長期にわたって飼養することだけではなく、牛群の生産寿命を延ばすことを意味します。繁殖可能となった牛を確実に判断し、適切な時期に一貫した処置を行うことで、妊娠数の増加や効率的な人工授精の実現、さらには淘汰される牛を減らすことが期待できます。つまり、デルプロの各種機能を上手に使うことで、繁殖に関わる労力をできるだけ省くことができるようになるのです。

*1 Ranasinghe, R. M., T. Nakao, K. Yamada, and K. Koike. 2010. Silent ovulation, based on walking activity and milk progesterone concentrations, in Holstein cows housed in a free-stall barn. Theriogenology 73:942–949